「え、まじ?」

俺が暗部の任務で里を出ていた間になんか色々大変なことがあったらしい。
イルカの同僚が裏切ってナルトを騙して禁術を持ち出そうとして、それを食い止めるためにイルカが助けに入って結構ひどい怪我をしたらしい。
その情報を知ったのは、火影によって収集された上忍師の待合室でだった。

「って、なんでお前が知らねえんだよ。イルカんとこに飯食いに行かなかったのか?大怪我したっつってももう退院してんだぜ?」

今回共に上忍師になるアスマが煙草を吸いながら呆れた顔で聞いてきた。

「あのね、俺は色々と忙しいの。アスマと同じにしないでくれる?」

「ふーん。」

アスマはにやにやと笑っている。くそっ、こいつにはイルカのことで色々と相談してるからなあ、やっぱ気付くかよ。あーあ、もう、俺人選間違ったかなあ...。

「ま、何があったか知らねえが、今回はイルカの担任してたガキ共の試験だ。力入れてくぞ。」

「解ってるってのっ。」

俺はむくれながらも同意した。別に今まで数回あたった下忍試験に手を抜いていたわけじゃないけど、イルカの受け持っていたクラスの子どもが相手と思えば力が入る。
べ、べつにそれでイルカに付け入ろうとか思ったわけじゃ...えーと、少しだけ思いましたすみません...。
それからしばらくして、上忍たちは順番に待機室を出て行く。イルカたちの待つ教室へと行くんだろうな。俺もそろそろ行くか、と腰を上げようとした所に声がかかった。

「カカシ、」

火影だった。

「はいはい、なんですか?ちょっと今から俺忙しいんですけど。」

「そんなのは解っとるわい。いいからついて来い。」

解ってないじゃん、と口の中で悪態をついたが火影命令じゃ従わないわけにはいかない。俺は渋々火影の後に付いていった。
着いた先はナルトの家だった。どうやら俺はナルトとうちはの生き残りのガキを担当することになるらしい。こりゃ大変だわ。俺に過労死させたいの、火影サマ...。
それから俺は火影と別れて教室へと急いだ。
やっばいなあ、もう顔合わせの時間、大分過ぎちゃってるじゃない。これでイルカの機嫌がますます悪くなっちゃったらどうしてくれんのっ!?
俺は火影に向かって恨み言を言いつつも教室へと向かった。
ふう、着いた、と思ったら扉にとんでもなく古風なブービートラップが仕掛けてあった。
これは一発引っかかってやらないとね、イルカの笑いが取れればいいけど。
と、思って俺は思いっきり戸を開けて黒板消しを頭に受けたが、室内にイルカはいなかった。いるのは生意気そうなガキ3人。
はあ、イルカは帰っちゃったわけだ。くそう、火影めっ。

「お前らの第一印象はぁ、嫌いだ。」

黒板消しを頭に受けて粉まみれのままの頭で、俺はガキどもにしっかり八つ当たりを済ませた後、自己紹介をするべく外庭へと向かった。そこで自己紹介をしてもらうのだ。
が、自己紹介しろと言ったら俺からしろときたもんだ。なかなか着眼点いいじゃないの。
でもまあ、まさか俺の趣味が今ではイチャパラ読むことだとかイルカのストーカーなんて言えるはずもないのでその辺りは誤魔化した。
そして各々に自己紹介を促す。

「好きなのはカップラーメン、もっと好きなものはイルカ先生におごってもらった一楽のラーメン!!」

へえ、イルカ、ナルトにあそこのラーメンおごってやったりしてたんだ。イルカの名前が出てきたことに少しだけ心が和んだ。

「野望はある。一族の復興と、ある男を必ず殺すことだ。」

サスケの言葉に俺は心の中でため息をついた。復讐か、なまじ兄弟ならば憎しみも人一倍ってところか...。

「好きな人はぁ...、将来の夢はぁ...。」

と、ちらちらと隣にいるサスケに意味ありげな視線を送っているサクラには、心が和む云々以前に少々不安になったが、まあ、年頃の女の子ってのはこんなもんなのかねぇ。
それから俺は明日のサバイバル演習の内容を書いたプリントを渡して解散した。
そして俺はとぼとぼと自宅への道を行く。
今日はイルカの家に、い、行こうか、いや、やめとこう。
怪我したって聞いたのに行けないのはひとえに俺が告白したのできっとまだギクシャクするだろうという危惧からなのだが。
ああ、俺ってば本当に意気地が無いというか何というか。
よしっ、とりあえず明日の下忍認定試験が終わってからにしよう。うん、それがいいっ。
そして翌日、俺はきっちり遅刻して演習場にやってきた。よしよし、ちゃんとみんな朝食は抜いてきたようだな。にやにや笑うとガキどもがぶーたれた視線を送ってくる。
ふふ、忍びは裏の裏をかけってね。早速鈴取り開始だ。

 

...そして結果、俺は合格を言い渡した。
前半はどうなるか少々不安だったが、こいつらはちゃんとやっていける。色眼鏡を使わずともそう思えた。さすが、イルカが育てただけはあるってことかな。仲間を思いやるという気持ちを忘れない。俺が過去、犯した過ちを繰り返さないように、大切な仲間を信じるという気持ちを忘れないように。

「さーて帰るかぁ。」

と、お約束のようにナルトを置いて帰るしたふりをして、戻ってナルトの縄をほどいてやった。ナルトはむくれていた。ギャグの解らない奴だね。ってかちゃんと手加減して縄で縛り付けたんだからちゃんと自分で縄抜けしようよ。
しかし縄を解いてやったら次の瞬間には満面の笑みを浮かべていた。嬉しそうな顔だこと。

「へへっ、俺ってばイルカ先生に報告に行っちゃおうっと。」

俺はその言葉にぴくんと反応した。こいつ、昨日の発言と言い、この態度と言い、イルカを特別視してるな。ふふん、ま、俺の気持ちに比べれば雲泥の差に違いないだろうがね〜。
よし、イルカの所に行くなら一緒についていこう。これはいい機会だっ!!
俺は帰ろうとしていたサスケとサクラも連れてイルカの所に行くことにした。やっぱ恩師に報告はしないとねえ。
本来は火影に結果報告をするだけでいいのだが、ナルトがどうしてもって言うから〜、と言えば不自然じゃないはずだっ。
俺は態度にはおくびにも出さずに3人を連れてアカデミーへと向かう。

「へっへー、合格したお祝いにイルカ先生にラーメンおごってもらっちゃおっかなー。」

「イルカ先生っていつもラーメンおごってくれんの?」

俺は興味なさげに他に話題がなかったから仕方なく聞いてやってます、といった具合の口調で聞いた。

「うーん、いつもじゃないな、俺がすっげえ怒られたときとか、あとはすっげえがんばっちゃった時かなっ!」

すっげえすっげえばっかり連呼してもっと他にボキャブラリーってもんがないのかね君、と思ったが口にはしなかった。ま、なんとも抽象的だが、なんとなくわかったよ。

「サスケやサクラもイルカ先生にラーメンおごってもらったことあるのか?」

「私はないわよ。家に帰ったらご飯があるし、間食にラーメン一杯って結構なカロリーなのよ?女の子がそんなの食べてたらすごいことになっちゃうじゃない。」

ふうん、すごいことになっちゃうのかあ。俺はサスケに視線を投げかけた。サスケはちっ、と舌打ちして言った。

「何度かある。飯の買い物の途中で会ってそのまま食いに誘われたのがほとんどだ。」

確か今でもうちはの居住区に1人で住んでいると聞いている。一族を惨殺されたあの場所でたった1人。イルカはきっと誘わずにはいられなかったんだろうなあ。
同情とかじゃなくて、ただ、一緒に飯を食いたいと純粋に思ったに違いない。

「でもラーメンばっかじゃ飽きないか?」

俺が言うとナルトはぜんっぜんっ!と息を巻いて豪語する。

「カカシ先生、一楽のラーメン食ったことないの?あれってば一度食ったらやみつきになるてばよっ!!」

ナルトの目がきらきら輝いている。うん、解るからね、大体イルカにあの店教えたの俺だからね?
それにしてもそうか、ナルトとよくラーメン食いには行くけど手料理までは食わせてもらってないわけだ。
ふふふふふ、なんか俺ってば優越感が出てきちゃったよ。俺なんてイルカの手料理もう数え切れないくらい食ってるからね。
スキップしたい気分を押さえ込んで、俺たちはアカデミーに着いた。ナルトが走ってイルカのいるであろう職員室へと向かっていく。俺とサスケとサクラは慌てずに歩いて職員室へと向かう。
遠目に、廊下に出てきたイルカがナルトから合格したことを聞いて一緒になって喜んでいるのを見た。ふふ、嬉しいんだな、そりゃそうだ。自分が担任しててあれだけのどべっぷりの生徒が下忍に合格したんだからなあ。実質下忍に合格になるのはクラスの3割だから、その喜びもひとしおなんだろうなあ。
イルカがこちらに気が付いた。サスケとサクラにおめでとう、と言って嬉しそうに口元を緩めている。そして俺に向かい合った。

「はじめまして、あなたがはたけ上忍ですね。火影様からお話は伺っています。こいつら、ちょっとくせはありますが優秀な子たちです。ビシビシ指導してやって下さい。」

イルカはにこっと笑った。
...は?

「えっと、」

俺が戸惑っていると、何を勘違いしたのか、イルカは背筋を伸ばした。

「あ、すみません、上忍の方に馴れ馴れしかったですね。あ、俺名前も言ってなかった。俺、いや、私はうみのイルカと言います。アカデミーでこいつらの担任をしてまして、ナルトは特にいたずらばっかりしてて、今回の試験も1人で馬鹿やったりしてなかったですか?」

イルカはそう言ってナルトの頭を小突いた。うわ、なんかすごい親しげだな。まるで親子みたいだよ。ってそんな場合じゃないって!!
イルカ、どうしちゃったの?どうしてそんな他人行儀なふりするの?俺のこと、そんなに嫌いになっちゃったの?そんなにあの告白が、嫌だった?
そう思ったらいてもたってもいられなくなった。
ううう、イルカ、イルカの馬鹿っ!!
俺はその場から逃げ出すように走り去った。部下の手前だとかそんなの関係ないっ!
イルカのおたんちーん!!